「ザ・フォール 落下の王国」【THE FALL】2006年・インド・イギリス・アメリカ
監督:ターセム
脚本:ダン・ギルロイ/ニコ・ソウルタナキス/ターセム
衣装:石岡瑛子
俳優:リー・ベイス・・・ロイ/黒山賊
カティンカ・ウンタルー・・・少女、アレクサンドリア
レオ・ビル・・・ダーウィン
ジュリアン・ブリーチ・・・霊者
ジットゥ・ヴェルマ・・・インド人
ロビン・スミス・・・爆発の達人、ルイジ/俳優仲間
マーカス・ウェズリー・・・奴隷/氷配達人
ダニエル・カルタジローン・・・シンクレア/総督オウディアス
ジャスティン・ワデル・・・看護婦エヴリン/姫
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1915年、ロサンジェルスの病院。
過激な撮影に失敗し下半身不随になってしまった若きスタントマンのロイは
事故で女優の恋人の心も失い、自暴自棄になっていた。考えるのは自殺のことばかり。
そんな彼の窓に、幼い子の書いたへたくそな英語の可愛い手紙が吹き込む。
それはオレンジ農園で手伝い中に落下し骨折して入院中の5歳の女の子アレクサンドリアが
看護婦に宛てた手紙だった。
貧しく、悲劇的な過去をもつが無邪気な移民の幼い少女は
ロイのもとを手紙を返してもらおうと訪れるが
ロイはある企みを胸に、少女におとぎ話を聞かせ始めるのだった。
1人ぼっちで退屈な病院生活、アレクサンドリアは奇想天外なロイの物語にすぐに夢中になった。
ロイの物語とは、むかしむかし、暴君がいて、その総督に恨みをもつ個性的な5人の戦士が、
弟の仇討を目的とする山賊(少女とロイの脳内ではロイの姿)を頭に、復讐すべく旅をするというものだ。
少女は物語にのめりこんでゆき、毎日、ロイのもとを訪れるようになってゆく。
ある時、ロイは、物語の続きをせがむ少女に、眠れなくて続きが思いつかないから
薬がほしい、看護婦にはナイショで、とモルヒネの薬瓶を盗んでこさせようとする・・・。
おはなしが聞きたいあまり、少女は調剤室に忍び込んだが・・・。
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「ザ・セル」で世界をアっといわせた鬼才ターセムの映像美を満喫できます。
世界24カ国で撮影したミステリアスでエキゾチックなファンタジーの世界は
物語の筋などそっちのけで(実際、語っているロイも超テキトーなのでつじつまなどどうでもよく)、映像美だけを楽しめます。
そして、現実世界のほうの映像も、やはりとても美しい。
整った美しさではなく、シュールな美学。
この映画、少女カティンカ・ウンタルーで全編がもっているような気すらします。
圧倒的な映像美より、この素朴すぎる幼い少女のふっくらした田舎の子らしい笑顔と
たどたどしい喋り方のほうが、うっとりさせてくれるのです。
日本の人形のようにつくりこまれた媚びた子役など到底かなわない「素材の愛らしさ」にヤラれてしまいました。
すきっ歯、えくぼ、よちよちした歩き、訛ってる上に子供らしい発音の英語。
超懸命にセリフを覚えている感じが、この映画にはピッタリなんです。
ファンタジー、寓話、おとぎ話、すなわちそれは、現実世界のうつし絵。
奇想天外であるようにみえて、今ここで生きる誰かの胸のうちを描く。
ステキな映像は数えきれないほどあれど、最初のほうのゾウの水泳でもうウットリ。
CDを駆使しなくても、いえ、しないからの「血の通った幻想性」
これは予算的にも労力的にもなかなかできないことです。
おとぎのおはなしはさておき
映画の中で、厳しい現実に直面しているのは、おそらく実は少女のほうです。
母も娘を愛していても、幼児には過酷な労働をさせざるを得ない。
家は焼かれ、父は殺され、その経緯は移民だからなのか、背景はわかりませんが
少女がわかっていない、これがポイントです。
よくわからないんだけど、怒ったひとたちが家を燃やしたりパパを殺したり
世界は怒ったひとがいっぱいで、面白いことより悲しいことのほうが多い。
だから、おとぎ話が少女には必要でした。
きれいなお姫様とステキなヒーローのキッスに憧れる5歳の少女。
でも、それが変わってゆきます。
少女は、「ジサツミスイ」もよくわかりませんし、ロイが死のうとして薬を頼んだことも
実際にはよくわかっていません。
でも、物語のなかでロイが生きる気力を失ったことはちゃんとわかる。
だから少女はロイを救うべく、山賊の娘として物語に自ら参加します。
男の心を弄ぶ悪い美女をハナで嗤い、真実を導き出します。
もうその少女は、ロマンティックな恋物語にうっとりするおんなのこではない。
ロイは悲劇の主人公気分に溺れています。
ほんとの悲劇のヒロインである少女は自分をそうと気づいていないから、現実に屈していない。
母親に、農園で子供を働かせるなという医師の言葉を通訳しませんでした。
強い子です。
ロイは現実に敗北してしまっていた。
現実とはなんぞや。
事実とは違うのでしょうね。
受け止め方で、リアルは違ってくる。
ころころと落っこちるスタントマン。
落ちてはまた起き上ては観客を驚かせ笑わせ、のぼり、また落ちて這い上がり。
七転び八起き、それが人生ではありませんか。
Last updated January 16, 2012 18:15:09
「ザ・シャウト/さまよえる幻響」[THE SHOUT]1978年・英
監督:イエジー・スコリモフスキ
脚本:イエジー・スコリモフスキ/ マイケル・オースティン
俳優:アラン・ベイツ・・・クロスリー
スザンナ・ヨーク・・・レイチェル
ジョン・ハート・・・アンソニー
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アボリジニの魔術を操り叫び声で人も動物も殺せるという不気味な男が
若い夫婦の家に入り込み、妻を寝取ろうと術をかける。
夫は復讐を企てるが・・・
虚実ないまぜで物語は進行する。
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当時、音響ホラーという勲章をもらった作品です。
神経を逆撫でするイヤな音が大音響で迫り、禍々しい雰囲気炸裂。
この監督もクセものですね。気持ち悪い演出なのに後をひく。
物語は、ハネケの「ファニーゲーム」かよ、と思うほど
薄気味悪い強引な訪問者で壊されてゆく家庭、という雰囲気です。
前編、黒板を引っかくような背筋のゾゾっとする演出満載。
若妻のストッキングを嗅ぎまくりとか、もうトリハダ(笑
物語は、結局のところ、精神障害者の妄想なのか
現実なのか、ごちゃごちゃなつくりになっています。
妄想オチなように見せかけていますが
ラストでレイチェルが、男が落雷で死んだ原因になった靴の留め金を
悲しそうに外すシーンがあります。
看護婦の格好なので、「彼は?」ときいていますが
現実では、看護婦の彼女に恋していた患者、という設定かもしれません。
でも、そのあたりはどうでもよく、
テーマはやはり、「愛」
気の毒なコトになった売れない音楽家の夫アンソニーは、
靴屋の女房とデキており、貞淑な妻を裏切っています。
妻は呪術で操られ素性も知れない男のモノになってしまいますが
男のほうは、劣情だけではなく、レイチェルを本気で奪いたかったのでしょう
愛、性愛、それらの儚さと切なさ
繰り返し出てくる砂丘のように、いつも形を変え風に流される不確かなもの。
官能表現がなかなか素晴らしい。
靴、はダイレクトに女の象徴ですしね。
サンダルの留め金があんなに淫靡に見えてしまうとは。
恐ろしいインパクトのある作品です。
カンヌで審査員賞を受賞。
冒険的な作品ですが、こういう映画監督が認められる時代は健全です。
Last updated January 14, 2012 18:41:32
「シャッフル」[PREMONITION(悪い予感)]2007年・米
監督:メナン・ヤポ
脚本:ビル・ケリー
俳優:サンドラ・ブロック・・・リンダ
ジュリアン・マクマホン・・・夫、ジム
アンバー・ヴァレッタ・・・クレア
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幸福な家庭の主婦、リンダ。
可愛い2人の娘の子育てに忙しい日々。
ある日、出張中の夫が自動車事故で死んだと連絡を受ける・・・。
その日は木曜日。
それから目覚めるたびに、一週間の曜日がバラバラに彼女に訪れる。
夫が生きていた月曜日、葬儀の土曜日、また夫がいる火曜日・・・
混乱を極めるリンダ。
娘の顔についた恐ろしい傷跡、土曜日の葬儀の後、母親の通報により精神病院に収監されてしまう自分・・・。
何があったのか。
水曜日、夫が死ぬ日。リンダは運命を回避すべく必死で立ち向かうが・・・
やがて浮き彫りになってゆくのは、本当は冷え切っていた夫婦の仲だった・・・
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信仰の大切さを描いた作品としても見られますね。
「シェルター」と同じで、後から反省しても、一度信仰を捨てたら救ってはもらえない・・・。結果を受け入れるしかない、という。
でも、この作品、スリラー、ホラーというふれこみですが、そうでしょうか。
その視点で観ると、ほとんどドキドキもハラハラもしない。
夫婦の愛情のほうをメインで私は観ました。