Sunday, January 22, 2012

Gabbardの演習林−心理療法・精神医療の雑記帳

竹田青嗣著『近代哲学再考』

 もう一冊、竹田青嗣の本を読む。『近代哲学再考―「ほんとう」とは何か-自由論-』。径出版。2004年刊。現代哲学の思想的空虚さを批判する著者が、近代哲学の流れを再検討し、現代においてもなお失っていないその重要性と意義をあらためて確認しようとした著作。

 中世では、人間存在のあらゆる根拠が神という絶対的な存在に置かれていた。しかし近代において思想家は、善や真の根拠が人間にあることを明確にしようとしてきた。この知的努力の蓄積が、近代哲学の発展にほかならなかった、と竹田は主張する。

 ところがポストモダンを代表とする現代思想の多くは、言語ゲームにひたる中で、自由や倫理の根拠を超越項に差し戻してしまった。レトリカルな議論に終始するそのような思想は、現代に生きる人間にとって本質的な意味をもつものではない。われわれにとって本当に必要なことは、他者との関係性の中から、ほんとうのこと、よいこと、などの価値が生じ、それが意味を持っていく過程を厳密に理解していくことだ。

 このような立場にたつ竹田の思想的特徴は、次の一節にはっきりと現れている。

 人間のエロスは、単なる「快苦の享受」ではなく「意味の享受」であり、それは関係の織物としての価値審級(真・善・美)という様態において、人間の幻想的身体にもたらされる。人間の生の本質は、この「関係の世界」の中で、諸価値と意味のありようを絶えず自己の存在可能との連関の中で刷新しながら、その生を味わいつつ生きる、ということであって、まさしくそこに「自由」の感覚の核があります。またこのことが、人間の生の本質を、「自由」への希求というかたちで意識させている根本的理由なのです。(p229)

 竹田は思想家の社会的役割を意識し、現代においてとりくむべき思想的課題を常に探求しようとしている。その誠実な思考態度が非常に印象深い一冊だった。

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